慶弔費(香典・祝儀)の勘定科目と仕訳の実務ポイント

会社経営をしていると、取引先や従業員の結婚式や葬儀に参列し、ご祝儀や香典を渡す場面があります。
こうした支出は「慶弔費」と呼ばれ、会社の経費として処理できる場合があります。ただし、慶弔費は現金で支払うケースが多く領収書が残りにくいため、経理処理や証拠書類の残し方に注意が必要です。また、「どの勘定科目にすべきか」「消費税はかかるのか」といった点についても、実務上よく相談を受けます。
本記事では、慶弔費(香典・祝儀)の会計処理について、税理士事務所の実務経験を踏まえつつ、仕訳例や注意点を整理しました。
目次
慶弔費とは?経費になる範囲と勘定科目の考え方
慶弔費の基本的な考え方
慶弔費とは、会社が取引先や従業員に対して結婚・出産・葬儀などの慶事・弔事の際に支出するお金を指します。香典や祝儀のほか、花輪や供花、記念品なども含まれます。
経費として認められる条件
慶弔費が経費になるかどうかは、以下の2つの条件を満たすことが基本です。
- 事業に関連する支出であること
- 取引先や従業員、その家族に関する慶弔が対象。
- 会社の交際関係や福利厚生の一環と認められる必要があります。
- 社会通念上で一般的な金額・内容であること
- 相場を大きく超える支出は経費として否認されるリスクあり。
- 例えば、取引先の葬儀に香典1万円など、地域の慣習や一般的な金額水準に沿っていることが重要です。
勘定科目の使い分け
慶弔費は内容によって以下のように処理されます。
- 取引先に対する支出 → 交際費
- 従業員やその家族に対する支出 → 福利厚生費
この区分を誤ると税務調査で指摘を受ける可能性があるため、社内で統一ルールを持っておくと安心です。
会社負担の仕訳パターンと個人事業主の場合の取扱い
1. 会社が取引先に香典を渡した場合(交際費)
借 方 | 消費税区分 | 金 額 | 貸 方 | 消費税区分 | 金 額 |
---|---|---|---|---|---|
交際費 | (不課税) | 10,000 | 現金 | (不課税) | 10,000 |
中小企業では交際費の損金算入限度額がありますが、慶弔費も交際費に含まれます。ただし、年800万円までの範囲内であれば全額損金算入できます。
2. 会社が従業員に祝儀を渡した場合(福利厚生費)
借 方 | 消費税区分 | 金 額 | 貸 方 | 消費税区分 | 金 額 |
---|---|---|---|---|---|
福利厚生費 | (不課税) | 10,000 | 現金 | (不課税) | 10,000 |
従業員の結婚や出産などに対するお祝い金は、福利厚生費として処理できます。従業員全体を対象にした慶弔規程を作っておくと、より明確に「福利厚生費」として認められやすくなります。
3. 個人事業主の場合の注意点
個人事業主が取引先に慶弔費を支払った場合は、会社と同じく「交際費」として処理できます。
借 方 | 消費税区分 | 金 額 | 貸 方 | 消費税区分 | 金 額 |
---|---|---|---|---|---|
交際費 | (不課税) | 10,000 | 現金 | (不課税) | 10,000 |
一方で、個人事業主本人やその家族に対する慶弔費は経費にはできません。事業とは直接関係がないため、事業用資金から支出した場合は「事業主貸」として処理します。
借 方 | 消費税区分 | 金 額 | 貸 方 | 消費税区分 | 金 額 |
---|---|---|---|---|---|
事業主貸 | (不課税) | 10,000 | 現金 | (不課税) | 10,000 |
実務の現場では「身内の香典も経費にしてよいのでは?」と誤解されるケースが多いため注意が必要です。税務調査でも指摘されやすいポイントです。
4. 消費税の取扱い
慶弔費(香典・祝儀)は、金銭の贈与であり、消費税の課税対象にはなりません。
したがって仕訳入力時には、消費税区分を「対象外」として処理するのが正しい対応です。
一方で、花輪や生花、供花などを業者から購入して渡した場合には「課税仕入れ」に該当します。つまり、この部分については消費税を計算する必要があります。
領収書がない場合の証拠資料とトラブル回避のポイント
領収書がもらえない支出
慶弔費は現金で渡すため、基本的に領収書を受け取れません。そのため、経理処理において「証拠を残す」ことが大きなポイントになります。
メモ書きでの記録方法
実務で最も現実的なのが、「支払日・金額・相手の名前・内容(葬儀・結婚式など)」をメモ書きや出金伝票に残しておくことです。
このシンプルな記録でも、税務調査の際に十分な証拠として認められます。
補足資料を残しておくとより安心
- 結婚式や葬儀の案内状・会葬礼状
- 社内の慶弔規程
- 取引先や従業員との関係を示す社内メモ
これらを併せて保存しておくと、経費処理の妥当性を説明しやすくなります。
実務でありがちなトラブル
- 金額が大きすぎて経費否認されるケース
- 領収書がなく、記録も残っていないため説明ができないケース
- 代表者個人の慶弔費を誤って会社の経費にしていたケース
こうした事例は大阪の中小企業でも少なくなく、後から修正対応を迫られることもあります。最初から正しい仕訳と証拠管理をしておくことが、安心につながります。
まとめ
慶弔費(香典・祝儀)は、会社の交際費や福利厚生費として経費処理が可能です。ただし、
- 勘定科目を正しく区分すること
- 社会通念上で一般的な金額・内容であること
- 領収書がない場合は「日付・金額・相手・内容」をメモで残すこと
- 消費税の対象外であること
これらのルールを押さえておくことが大切です。
慶弔費は金額自体は小さいことが多いですが、証拠の残し方を誤ると税務調査で思わぬ指摘を受ける可能性があります。当事務所(大阪市)でも、経理処理などのご相談を数多くいただいています。
「これは交際費か福利厚生費か迷う」「自分のケースではどう処理するのがよいのか」など疑問があれば、お気軽にご相談ください。実務の現場感を踏まえたサポートをいたします。

著者紹介
「小さな会社と個人事業主の専門税理士」、吉川拓税理士事務所の吉川です。
10年以上にわたり、小規模事業者や個人事業主の皆さまを税理士としてサポートしてきました。
現在大阪市で開業しています。
会計や税金が苦手な方にも、専門用語を使わず分かりやすく、親身に寄り添うことを心がけています。
趣味はトイプードル、コーヒー、読書。お気軽にご相談ください。